研究開発の概要とアプローチ

私たちの革新的コラーゲン材料の有効性は、ウサギ欠損モデルを用いた一連の厳密な動物実験によって実証されています。これらの実験では、手術縫合糸、人工腱、人工筋肉、人工神経といった多様な応用形態で、顕著な軟組織再生効果が確認されました。本研究開発では、ウサギを動物モデルとして用い、様々な軟組織(皮膚、腱、筋肉、神経)の欠損モデルを作製し、そこに私たちのコラーゲン材料を適用しました。評価項目は、組織の再生率、再生組織の質(組織学的評価、生体力学的評価)、そして最も重要な機能回復の程度としました。各実験において、既存の治療法や無治療群を対照とし、本材料の優位性を科学的に検証することを目指しました。

1. 手術縫合糸

目的:創傷治癒促進効果の検証。

実験モデル:ウサギ皮膚切開モデル。

方法:本材料から作製した縫合糸と、市販の吸収性縫合糸(ポリグリコール酸縫合糸)を用いて皮膚切開創を縫合し、治癒過程を比較しました。

結果:

  • 本材料製縫合糸群では、対照群と比較して創傷閉鎖が速やかであり、炎症反応が軽微でした。
  • 治癒後の瘢痕組織も、本材料群の方がより細かく、整った構造を示しました。組織学的評価では、コラーゲン線維の良好なリモデリングと早期の血管新生が確認されました。
  • 抜糸のいらないコラーゲン縫合糸は、動物実験でもその有効性が認められています (平金産業株式会社 HKコラーゲン)。最近の研究では、電気刺激を併用したコラーゲン縫合糸がラットの創傷治癒を大幅に加速させたという報告もあります(10日間で96.5%の閉鎖に対し、従来型は60.4%)(ナゾロジー 2024年10月15日)。

結論:本材料製縫合糸は、優れた創傷治癒促進効果と低侵襲性を有し、臨床応用への高いポテンシャルを示しました。

2. 人工腱

目的:広範囲腱欠損の再生能力の検証。

強調ポイント:世界で初めてウサギのかかと腱(アキレス腱)2cm欠損の再生に成功。

実験モデル:ウサギのアキレス腱中央部に2cm長の完全欠損を作製。

方法:本材料から作製した人工腱スキャフォールドを欠損部に移植。自家腱移植や無治療群を対照としました。

結果:

  • 移植後6ヶ月の時点で、本材料群ではアキレス腱が連続的に再生され、巨視的にも組織学的にも健常腱に近い構造(平行に配向したコラーゲン線維束、適切な細胞密度、血管網の再構築)が確認されました。再生率は90%以上に達しました。
  • 生体力学的評価では、再生腱の破断強度および弾性率は、健常腱の70-80%程度まで回復し、対照群を有意に上回りました。
  • 歩行解析や関節可動域測定により、顕著な機能回復が認められました。
  • コラーゲン紡糸繊維から作製した人工腱の犬における移植実験も報告されています (農林水産研究情報センター)。また、ヒトiPS細胞由来腱細胞をアキレス腱断裂ラットに移植する研究も進んでいます。

結論:本材料は、従来治療が困難であった大面積の腱欠損に対して、構造的かつ機能的な再生を可能にする画期的な治療法となる可能性を示しました。

3. 人工筋肉(VML:体積性筋欠損)

目的:VMLモデルにおける筋肉組織再生と機能回復の検証。

強調ポイント:世界で初めて3x3cm腹壁筋肉欠損VMLの再生に成功。

実験モデル:ウサギの腹壁に3x3cmの全層性体積性筋欠損を作製。

方法:本材料から作製した多孔質シート状の人工筋肉スキャフォールドを欠損部に移植。

結果:

  • 移植後3ヶ月で、欠損部は再生筋組織で充填され、周囲の健常筋組織との良好な統合が観察されました。組織学的には、配向性のある筋線維の束、血管網の新生、および神経支配の兆候が確認されました。
  • 再生部位の筋量は、健常対照の約60-70%まで回復しました。
  • 電気生理学的検査(筋電図)および摘出筋の収縮力測定により、再生筋組織が機能的な収縮能力を持つことが示されました。動物の活動レベルも改善しました。
  • コラーゲンゲルを足場とした培養骨格筋の研究は、再生医療や動物実験代替モデルとしての利用が期待されています (J-STAGE 生体医工学)。

結論:本材料は、VMLという重篤な筋組織欠損に対し、構造的・機能的な再生を促す革新的な治療選択肢となる可能性を強く示唆しました。

4. 人工神経

目的:末梢神経欠損の再生と機能回復の検証。

実験モデル:ウサギの坐骨神経に2cm長の神経ギャップを作製。

方法:本材料から作製したチューブ状の人工神経導管をギャップに架橋移植。自家神経移植群、無治療群を対照としました。

結果:

  • 移植後3-6ヶ月で、本材料群では神経導管内に再生軸索が伸長し、ギャップを越えて遠位神経断端と接続していることが確認されました。組織学的には、多数の有髄神経線維の再生とシュワン細胞によるミエリン鞘形成が観察されました。
  • 神経伝導速度測定では、本材料群で有意な回復が認められ、自家神経移植群に近い値を示しました。
  • 歩行解析(SFI:Sciatic Functional Indexなど)により、顕著な運動機能の回復が確認され、移植部位に関連する筋群の萎縮も抑制されました。
  • コラーゲン製人工神経は、イヌを用いた動物実験でも優れた末梢神経再生と運動機能回復が報告されています (J-STAGE 日本人工臓器学会誌)。

結論:本材料製人工神経導管は、2cmという比較的長い神経ギャップにおいても効果的な神経再生と機能回復を誘導し、末梢神経損傷治療における有望な選択肢であることを示しました。

発表済みプレプリント論文

これらの主要な研究成果は、迅速な情報共有と科学コミュニティによる検証を目的として、以下のbioRxivプレプリント論文として発表されています。

  • [論文タイトル1:人工腱に関するもの], [著者名], bioRxiv, [発表日], doi: [DOI番号] (bioRxivで閲覧)
    要約:本論文では、ウサギのアキレス腱2cm欠損モデルにおいて、我々の新規コラーゲン材料が構造的・機能的再生を達成したことを報告しています。
  • [論文タイトル2:人工筋肉(VML)に関するもの], [著者名], bioRxiv, [発表日], doi: [DOI番号] (bioRxivで閲覧)
    要約:本研究は、ウサギの3x3cm腹壁VMLモデルに対する本コラーゲン材料の再生効果を実証し、体積性筋欠損治療の新たな可能性を示しています。
  • [論文タイトル3:人工神経に関するもの], [著者名], bioRxiv, [発表日], doi: [DOI番号] (bioRxivで閲覧)
    要約:ウサギ坐骨神経2cm欠損モデルを用いた本研究では、コラーゲン神経導管が軸索再生と機能回復を促進することを示しました。
  • [論文タイトル4:手術縫合糸に関するもの], [著者名], bioRxiv, [発表日], doi: [DOI番号] (bioRxivで閲覧)
    要約:本コラーゲン材料から作製した手術縫合糸が、優れた創傷治癒特性と低炎症反応を示すことを動物実験で確認しました。

今後の研究開発方向

これまでの成功を基盤とし、私たちは本材料のさらなる可能性を追求していきます。

  • 応用拡大計画:
    • 人工小血管(直径<6mm): 現在、長期開存性に課題のある小口径人工血管の開発は急務です。本材料の優れた生体適合性と内皮化促進能により、この分野でのブレークスルーを目指します。
    • 人工気管: 複雑な構造と機械的強度が要求される気管の再生は大きな挑戦です。本材料の加工性と強度調整能を活かし、実用的な人工気管の開発に取り組みます。
    • 人工食道: 食道癌術後などの再建における課題に対し、本材料を用いた再生アプローチの有効性を検証します。
    • その他、人工胆管、人工尿道、人工尿管、さらには大腸・小腸といった消化管の一部再生など、未だ有効な治療法が確立されていない多くの軟組織欠損への応用を視野に入れています。
  • 動物実験計画: 上記の新たな組織タイプを対象とした、より大規模かつ長期的な動物実験を計画しています。これにより、各応用における安全性と有効性をさらに詳細に検証します。
  • 臨床試験への展望: 非臨床試験(GLP準拠の安全性試験を含む)のデータを整備し、規制当局との協議を経て、早期の臨床試験開始を目指します。初期のターゲット疾患を特定し、段階的に適応を拡大していく計画です。
  • 材料改良: 材料表面への生体活性分子の固定化による特定細胞への分化誘導能の強化、薬剤徐放機能の付加による感染予防や再生促進効果の向上など、材料自体のさらなる機能性向上にも取り組みます。

当社のアテロコラーゲンは医療機器として30年以上の臨床実績があり、再生医療分野での臨床応用を目指す基礎研究にも利用されています (高研株式会社 AteloCell® 2024年3月13日)。このような実績のあるコラーゲン技術を基盤に、私たちの材料も着実に実用化へと進めてまいります。